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東京高等裁判所 平成11年(ネ)5198号 判決 2000年7月18日

控訴人(原告) X

右訴訟代理人弁護士 宇多正行

同 鈴木清明

被控訴人(被告) 有限会社Y1不動産

右代表者取締役 Y2

被控訴人(被告) Y2

右両名訴訟代理人弁護士 山田義雄

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人有限会社Y1不動産は、控訴人に対し、六〇三万六九六三円及び平成九年九月一日から毎月末日限り一か月三二万〇一四二円の割合による金員を支払え。

三  被控訴人Y2は、控訴人に対し、三二九万二七二一円及び平成九年九月一日から毎月末日限り一か月一七万四六一四円の割合による金員を支払え。

四  控訴人のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを四分し、その一を被控訴人らの負担とし、その余を控訴人の負担とする。

六  この判決は、主文第二及び第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人有限会社Y1不動産は、控訴人に対し、二二〇一万七四二七円及び平成九年九月一日から毎月末日限り一か月一三〇万五七三七円の割合による金員を支払え。

3  被控訴人Y2は、控訴人に対し、一二〇〇万八八九五円及び平成九年九月一日から毎月末日限り一か月七一万二一八四円の割合による金員を支払え。

二  被控訴人ら

控訴棄却

第二事案の概要

一  本件は、控訴人が、被控訴人らに対して、東京都世田谷区上用賀にある原判決別紙物件目録(一)記載の土地(本件土地)のうちの原判決別紙図面記載のa、b、c、d、g、f、aの各点を順次直線で結んだ範囲の土地(a土地部分。約九一〇・五三平方メートル)について地代の支払を求めた事案である(控訴人は地代相当額の不当利得返還請求をするともいうが、その実質は地代の支払を求めるものと解される。)。原判決は、控訴人の請求を一部認容(被控訴人有限会社Y1不動産(被控訴人会社)に対する地代は一か月一五万五九五六円、被控訴人Y2(被控訴人Y2)に対する地代は一か月八万四八二一円)したので、これに対して控訴人が不服を申し立てたものである。

二  右のほかの当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の該当欄記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の当審における主張)

原判決は、低廉な地代の支払を是認しているが、事実を誤認し、判断を誤ったものである。控訴人は、本件土地について更地として相続税を支払っているのであり、更地を権利金の授受なく貸す場合に税務署が相当と認める地代を貰わねば、納得できない。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所は、控訴人の請求は、被控訴人会社に対する地代を一か月三二万〇一四二円、被控訴人Y2に対する地代を一か月一七万四六一四円の限度で認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおりである。

1  事実の経過

<証拠省略>によると、次の事実を認めることができる。

(一) Aは、昭和一〇年八月、Bと婚姻し、その間には、長男の控訴人、次男のC、長女のD及び次女の被控訴人Y2がそれぞれ出生した。

(二) Aは、昭和三〇年代に本件土地を購入してその所有権を取得した。

(三) Aは、昭和四七年三月、被控訴人会社を設立した。

(四) a土地部分には、昭和四八年二月一五日に、被控訴人会社所有の原判決別紙物件目録(二)の三記載の建物(三建物。共同住宅)が、昭和五四年六月三〇日に、被控訴人会社所有の同目録一記載の建物(一建物)とA所有の同目録二記載の建物(二建物)(いずれも共同住宅)が、昭和五六年八月三一日に、B所有の同目録四記載の建物(四建物。共同住宅)が建築された。これらの建物は、Aによって一括して管理され、賃貸された。

(五) B所有の四建物の敷地の権利関係は、必ずしも明確ではない。

(六) 被控訴人会社所有の一、三建物の敷地の権利関係は、建物所有目的の土地の賃貸借であった。もっとも、Aは、この賃貸借等について、昭和五八年一二月二三日、小石川税務署長に対し、土地の無償返還に関する届出書を提出している。また、この届出書に記載された地代は、低廉なもの(本件土地のうちa土地部分以外の部分にある建物の地代を含め年額二七六万円)であった。しかも、実際には、被控訴人会社からAに対し地代の支払はされていなかった。

(七) 平成三年一二月二五日にBが、翌四年一二月二二日にAが死亡した。

(八) 平成七年一一月八日、A、B両名の相続人間に、遺産分割等の調停が成立した。Bの遺産である四建物は、遺産分割の結果、被控訴人Y2が取得した。また、Aの遺産である二建物は、被控訴人Y2が行使した遺留分減殺の結果、控訴人から被控訴人Y2に返還された。Aの遺産である本件土地は、Aの遺言により控訴人の所有とされた。

(九) 平成八年二月五日、控訴人、C、被控訴人会社及び被控訴人Y2間に裁判上の和解が成立した。その中で、被控訴人Y2は、被控訴人会社の出資口数全部を取得することとされた。そして、ア 控訴人は、被控訴人らに対し、a土地部分について、その上に被控訴人ら所有の建物が存続する限り、被控訴人らがこれを使用することを認め、被控訴人らに対して明渡しを請求しない、イ 控訴人と被控訴人らは、後日協議のうえ、a土地部分の使用に伴う権利関係及び地代等の利用条件を定めるものとする、と合意された。

(一〇) その後当事者間に協議が成立しないため、控訴人は、地代の支払を求めて、本訴を提起した。

2  a土地部分の敷地利用権の内容について

(一) 被控訴人会社所有の一、三建物の敷地利用権について

被控訴人会社所有の一、三建物の敷地利用権は、建物所有目的の土地の賃借権であった。もっとも、土地の賃貸人であるAが被控訴人会社を設立し、その会社を所有していたことから、地代は低廉なものとされ、Aが税務署長に土地の無償返還届出書を提出するなど、他人同士の土地賃貸借では見られない特徴もある。しかし、これは、被控訴人会社が実質上Aの分身であったことから、そのようなものとなったに過ぎないと考えられる。すなわち、Aも、被控訴人会社も、賃貸人と賃借人とが実質上同一人であるという特別の条件が存在する限り、右のような契約条件とするが、このような特別の条件が存在しなくなったときには、他人同士の賃貸借として、賃貸条件を改定することを予想し、これを承諾して、賃貸借契約を結んでいたものと認められる。

1(九)記載の和解により、被控訴人会社は全面的に被控訴人Y2の会社となり、控訴人は、これに対する支配権を失うこととされた。そうすると、賃貸人である控訴人と賃借人である被控訴人会社とは、A生存の頃とは異なり、実質上同一人格とはいえないこととなったものである。したがって、被控訴人会社は、控訴人に対して、A生存中のような特別扱いを求めることはできなくなったのであり、他人同士の関係として、賃貸条件が改定されることを受け入れねばならないものというべきである。

(二) 四建物の敷地利用権の内容について

被控訴人Y2は、遺産分割によりBの遺産である四建物を取得したのである。したがって、四建物の敷地利用権は、Bが有していた敷地利用権を承継したものということができる。Bは、Aの妻であり、このことから見ると、四建物の敷地利用権は、親族関係に伴う使用権に過ぎないかのように見える。しかし、四建物は、a土地部分の上の他の建物と共に、一括して管理賃貸されていたのであって、その敷地利用権について、被控訴人会社所有建物の敷地利用権と異なる内容のものとされたとは認めがたい。

前述のとおり、被控訴人会社所有建物の敷地利用権は、建物所有目的の賃借権であったものであり、そうすると、四建物の敷地利用権も同様の権利であったと認めるのが相当である。

ところで、B及びAの生存中は、地代なども親族関係から特別扱いされてきたものと考えられる。しかし、賃貸人と賃借人との間に良好な親族関係が築けない他人に準じる関係となった場合には、これに応じて、賃貸条件も、他人間の賃貸借に準じて改定されることが予定されていたものと認められる。

そして、控訴人と被控訴人Y2との間では、現在厳しい対立があり、賃貸借関係において、相互に良好な親族関係を前提とする特別扱いを求めることはできないものと認められる。そうすると、被控訴人Y2は、他人同士の関係である場合に準じて、賃貸条件の改定を受け入れなければならないものというべきである。

(三) 二建物の敷地利用権の内容について

二建物は、Aの所有であり、Aは敷地の所有権を有していたものである。これが、1(八)記載の調停などによって、二建物は被控訴人Y2に、本件土地は控訴人の所有となったのであるが、このように遺産である土地と建物とが別の相続人の所有とされる場合には、相続人間の通常の意思としては、建物のために通常の敷地利用権を設定する考えであり、現在の通常の敷地利用権は、建物所有を目的とする土地の賃借権であるといえる。そして、相続人間で、賃貸条件について特別扱いが求めうるときには、そのような合意もされようが、本件のような対立関係があるときには、他人同士の関係の場合に準じる賃貸条件を前提とするほかないものである。

3  地代の額について

以上のように、a土地部分の賃貸条件は、結局、他人間でこの土地を賃貸するとすれば、どのような内容となるかという観点から、これを決定するほかないものであり、A生存中に定められていた地代等は、参考になるものではない。

そこで、地代の源泉となる建物の賃貸による収益について調べてみると、証拠(乙二七)によれば、次の事実が認められる。

(一) a土地部分の上には、その敷地の目一杯に共同住宅(一ないし四の建物)が建てられ、賃貸に供されている。

(二) すべての室を賃貸した場合の賃料・敷金権利金等の運用益の総収入は、二一五九万五〇〇〇円である。

(三) これに対して、費用は、次の合計の八三二万五四三三円である。

減価償却費 五九八万三三三三円

内訳

本体一億一九七〇万円の三〇年間の定額法による額 三九九万円

設備二九九〇万円の一五年間の定額法による額 一九九万三三三三円

修繕費 総収入の五パーセント 一〇八万円

維持管理費 年額賃料一九六六万八〇〇〇円の三パーセント 五九万円

建物の公租公課 六三万四一〇〇円

損害保険料 建物の残存価格三七五〇万円の一パーセント 三万八〇〇〇円

(四) 差引きすると、収益の額は、一三二六万九五六七円となる。

地代とは、結局、この建物賃貸による収益を、土地の賃貸人と賃借人に分配した場合に、土地の賃貸人に帰属する分である。この分配は、双方の協議によりすることが望ましいのであるが、それができない場合は、やむをえず裁判所が双方の主張を聞きながら、公平に分配する以外にはない。

土地の賃貸人にしてみれば、この収益は、利用価値のある土地を提供したことにより挙げられるのであるから、その大部分を土地の賃貸人に分配すべきであるというであろう。しかし、収益は、土地と建物双方が揃い、さらに建物賃貸という営業が加わって初めて挙げられるのである。したがって、公平に考えれば、土地への資本投下、建物への資本投下、そして建物賃貸という営業それぞれに収益を分配すべきもので、土地の資本投下にのみ、あるいはことさらそれに厚く分配するのは、公平な分配ではない。

建物への投下資本の額は、乙二七の建物積算価格の試算によれば、当初の投資額が一億四九六〇万円であり、減価償却を全て終えた時点では、ほぼ零である。したがって、全期間の平均的な建物への投下資本額は、当初投資額の約二分の一、約七五〇〇万円である。これに対する年五パーセントの配当額は、三七五万円である。もし、その資金を金融機関より借り入れ、五パーセントより高率の利息を支払うとすれば、投下資本への配分額はこれを上回るべきものとなろう。現在の金利水準は、歴史的に見て異常に低い水準にある。過去の経験を踏まえれば、金融機関からの借入金利は、一〇パーセント内外であったこともまれではなかった。そうすると、例えば金利を七パーセントとすると、年間の額は、五二五万円になる。

そして、建物の賃貸営業は、建物の維持管理や賃借人を集め、賃料を収受するという労務としての側面と、賃借人が得られず空室となったり、又は賃料が低下するなどの損失の可能性、すなわち事業のリスクを負担するという側面とがあり、賃貸営業に対する報酬は、単なる労務の報酬ではない。高いリスクをとることに対する対価分を含むものというべきである。平均投資額として約七五〇〇万円の建築資金を投下し、このような営業のリスクをとり、そして労務も負担するとすれば、その報酬(対価)は、見る人により大きな幅があろうが、少なく見ても投下資本の四パーセント、年間三〇〇万円(月額二五万円)程度を超えるとみても、不自然とはいえないであろう。

そうすると、土地の賃借人に配分すべき額は、総額では年間八二五万円となるが、土地賃借人とすれば、これを下限として、賃貸人との交渉に臨み、妥協点を見つけようとするものと考えられる。

他方で、賃貸人は、土地への投下資本に対する報酬を要求するであろう。現実の土地の取引価額が、土地から挙がる収益を資本還元した金額(収益還元価格)に合致している場合には、土地への資本投下の額は、この取引価額によって算定すれば足りる。バブル経済の崩壊以来、土地の取引価額は、ほぼ毎年低下し、将来、収益還元価格に収斂するのではないかと考えられるが、現在は、未だ移行過程にあるといわざるを得ない。したがって、現在の取引価額を元に投下資本に対する報酬額を算定することはできないのである。ただ、ほかに手がかりがないので、やむを得ず、現在の取引価額を元に算定すると、乙二七によれば、a土地部分の取引価額は、約三億三四〇〇万円である。これに対する利回りは、従前から土地に資本を投下した場合の利回りが極めて低かった経験に照らして、二パーセントでも多い方であると考えられる。仮に二パーセントであるとすると、年間の報酬は、六六八万円となる。

このようにして、総額一三二六万九五六七円の収益を、土地の賃貸人と賃借人が分配するに当たり、土地の賃貸人は六六八万円を超える配分を求め、土地の賃借人は八二五万円を超える配分を求めることとなろうが、中立の機関である裁判所としては、これを右の金額で按分して、賃貸人である控訴人には、五九三万七〇八七円を、賃借人である被控訴人らには、その残り(七三三万二四八〇円)を配分するのが相当であると判断する。

したがって、地代の総額は、年額五九三万七〇八七円である(ちなみに、土地の公租公課の額は年間約九〇万円であるから、この地代の額は、その約六・五倍に相当する。また、坪当たりの月額は、約一七九三円である。)。そして、被控訴人ら両名でこれを分担するのであるから、その所有建物の一階部分の床面積の面積割り(二三二・三五平方メートル対一二六・七三平方メートル)で、被控訴人会社は、年額三八四万一七一二円・月額三二万〇一四二円、被控訴人Y2は、年額二〇九万五三七五円・月額一七万四六一四円とするのが相当である。

4  控訴人の主張について

(一) 控訴人は、本件土地を相続するに当たり、地上には借地権の負担のない土地の評価を受けて、相続税を納付したのであり、相続税法基本通達による地代の額を得られるのでなければ、納得できないと主張する。

しかし、控訴人の主張によれば、相続税法基本通達によって、相当な地代の額を算定すると、原判決別紙の計算書のとおり、地代は年額二四二一万五〇五八円となる。これは、賃貸人と賃借人が分配すべき収益の額一三二六万九五六七円をはるかに上回り、建物全室の賃貸収入の額二一五九万五〇〇〇円さえも上回る。世の中に建物の賃貸収入を上回る地代などというものは存在しない。右の相続税法基本通達による相当地代の計算に誤りがないとすれば、このような不当な結果が出るのは、通達の考え方そのものが、世の中の実態を無視した不当なものであるからである。当裁判所は、そのような実態に合わない議論を採用することはできない。

(二) 控訴人は、本件においても借地権が発生することを前提に、さまざまな主張をしている。

しかし、すでに地代算定の際に指摘したとおり、土地と建物が揃い、建物賃貸の営業が行われてこそ、建物賃貸の収入が挙がるのである。土地の賃借人は、建物に投下した資本と自己の賃貸営業に対する報酬(対価・配当)を受けるに過ぎないのであり、借地権に対する配当を受けるのではない。土地の賃借人は、自己の資本投下と営業に対する配当以外に何も得ていないのであるから、土地の資産価値の配分を受けていないのである。すなわち、土地の資産価値の配分としての借地権などというものは、本件の場合には、存在しないのである。

本判決により、控訴人は更地を新たに賃貸した場合と同額の収入を得るのであって、土地の賃貸によりなんらの不利益も負っていない。もし、この地代の額よりも高額な収入を他に賃貸することによって得ることができるのであれば、その場合との差額は、地代の増額により埋めれば足りる。そのための法的な手段は用意されているのである。

したがって、更地だから土地価格は高く、貸地だから低いというのは、本件の場合、幻想に過ぎない。世上見られる土地の賃貸借では、地代が適正な金額に達していない結果、その適正額との差額を借地人が利得し、それを資本還元すれば高額となることから、土地の資産価値の一部を体現する実態を伴った借地権が存在している。控訴人は、このことに目を奪われて、本件においてもそのような借地権の発生を懸念するようである。しかし、今後地代が適正な額に維持されていけば、そのような借地権は本件では発生しないのであって、控訴人の主張は杞憂に過ぎないのである。

二  したがって、控訴人の請求の認容額が低額に過ぎた原判決は、失当であるから、これを先のとおり変更すべきである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 西島幸夫 江口とし子)

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